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売買代金が時価相当額であったとしても,土地の売買による換金の利益が賄賂に当たるとされた事例
佐藤榮佐久前福島県知事らに対する収賄、競売入札妨害被告事件の最高裁決定が、裁判所の判例検索システムの裁判例情報に掲載された。「売買代金が時価相当額であったとしても、土地の売買による換金の利益が賄賂に当たるとされた事例」。
前知事らの起訴後、弁護団の公判に向けた戦力の拡充のために声をかけて頂き、弁護団の一員として弁護活動にあたってきた。
弁護団への参加時点では、主任弁護人である宗像紀夫先生とは面識がなかった。ヤメ検でもないし、大型疑獄事件の経験があるわけでもないし、刑事弁護委員会にすら入っているわけでもない私に、いろいろな経緯はあったようだが、どうしてか白羽の矢が立った。
それから東京地裁の判決が出るまでのおよそ1年半は、仕事時間の3分の1以上をこの事件に費やし、高裁・最高裁の段階でもそれなりの時間をかけてきた。東京地検特捜部と元特捜部長の全面対決の様相を呈していた事件で、元特捜部長が使う若手弁護士二人のうちの一人であり、非常に責任が重かった。この事件の後、村木さんの事件を皮切りに、次々と近時の特捜部の捜査の問題点が明らかになったが、特捜部はこの事件でもずいぶん無理な取り調べをしていたようであったし、重要証人の供述調書の内容が、出だしから、調書ごとに右往左往していた。類型証拠開示を受けた調書を一通り読んだ時点で、これでも検察は平然と起訴するのか、と妙に感心した。
争点は多岐にわたった。公判では、「いやいやあなた、本当のこと言ってないでしょう」という人が次から次に重要証人として現れた。弁護人だからそう思ったわけではないと思う。傍聴していた人たちは、次から次へ証言台にあがる重要証人達の証言に、相当のうさんくささを感じたのではないだろうか。しかし、裁判所は、地裁も高裁も、重要証人の全員について、その証言を信用できると判断した。
事件は、ご存知の方はご存知の通り、約1億7000万円の収賄のはずが、地裁判決では1億円が削られ、高裁判決では約7000万円が削られて、収賄額はゼロになった。前知事らが収監されることもなく、追徴もないことから、実質勝利という見方をしてくれる人もいるが、有罪判決は有罪判決であるから勝利ではない。
最高裁の決定は、職権で判断した賄賂性の部分以外は、わずか7行である。しかし、「単なる法令違反、事実誤認の主張であって」とされた部分に、弁護団のエネルギーの8割くらいが込められている。最高裁は、憲法違反と判例違反しか判断する必要はないが、法令違反や事実誤認について職権で原審を破棄することができるので、それを期待してエネルギーをぶつけてきた。
そして最高裁も、決定を出すまでに3年という期間を要した。賄賂性だけの判断であれば、そのような長期間はおよそ要しないはずであり、職権破棄事由があるかどうか、慎重な判断を行っていたのだと思う。同時期に争った著名事件も、ほとんどは2年程度で結論が出ている。最高裁で逆転するまで、もう一息だったはずだ。
ゴビンダさんの事件を見てもわかるとおり、最高裁であっても本当の真実はわからない。事実認定の場面では証拠の優劣を判断できるだけだ。最近、証拠捏造事件で職を失った前田元検事が、facebookで、「証拠隠しや不祥事隠しなど、検察では昔から連綿と続けられてきたことではないか」などとさかんにつぶやいている。彼もこの事件とは無関係ではない。検察がそういうものだと疑いの目をかけられる時代に証拠調べを行っていれば、違う結果が出たのではないだろうか。
また、最高裁の結論は、大きな枠組みをとってみても、収まりが非常に悪いように思えてならない。理屈として換金の利益が賄賂にあたりうるかどうかはさておいても、200億円を超えるダムの受注の謝礼が「土地を時価で買い取ってあげること」というのは、世間の常識とあまりにかけ離れていないだろうか。そんなものが権力者に対するそれの謝礼になりうるのだろうか?
いずれにしろ、この事件が、最近の報道の色合いのように「換金の利益では賄賂にあたらないとの前県知事側の主張が最高裁で認められなかった事件」として人々の記憶に残るのだとすると、とても残念に思う。
(以上は、あくまで私個人の見解であって、弁護団の見解ではありませんので悪しからず)